プレゼン研究室

第二章 CM業界A面、B面 13)「競合プレゼンの功罪」

13)「競合プレゼンの功罪」 S社宣伝課のKさんへ

 先日の競合プレゼンテーション、三社の中から僕たちのプランを選んでいただいて、ありがとうございました。いよいよ実作業というわけですが、その前に「競合プレゼンの功罪」について、ちょっと考えてみました。

 競合はたしかに作業的にも精神的にもシンドイのですが、良い面もあります。このテーマ、どうやらディベートのやり方で自問自答したほうがハッキリしそうです。

 僕自身の意見はとりあえず横に置いておいて、まず、競合プレゼン反対という立場で話し、次に賛成という立場で話してみます。いわば「一人ディベート」です。
 〈反対の立場から〉

 競合プレゼンはメリットが少ないと考えます。僕たちプランナーにとってだけでなくクライアントにとっても利益にならない場合のほうが多いのです。

 競合で新規の仕事を獲得しようとする場合は、そのクライアントがやってきた過去の広告を否定することから入りがちです。良ければ変える必要などないわけだから、「今までどおりではいけない。なぜならば……」という論法になります。

 各社がそういったアプローチをとります。すべてのプレゼンテーションが終わるころには、「やはり今までの広告とは大きく方向を変えたほうが良さそうだ」という空気が会議室に充満してきます。自分の会社の広告は、いかに優れたものであっても、慣れてくると目移りするものです。社内が飽きてきたころに、やっと世間では認識が始まるというケースが多いのに、です。

 また、競合の場合は、プランナーの側にもプランを練ることに専念できないというデメリットがあります。競合相手を視野に入れて、敵がどう出てくるかのヨミが重要なポイントになってきます。

 四社競合の場合、各社が五案ずつCM案を出したとして、合計二十案。一番になるためには、いつもと違うスタンド・プレーも必要。「良い広告」よりも、「良さそうに見える広告」に走りがちです。

 TVフレームからはみ出す大きさで商品を描いて、御社の商品をこんなに大切に考えていますよ、とアピールしたり。絵コンテよりも、できあがりの感じがよくわかるようにビデオ・コンテを作るのはいいのですが、十五秒のCMなのにクライアントの言いたいことを全部入れた三十秒のビデオ・コンテを作ってしまったり。あんなの実際に作るとき、どうするんですかねぇ。

 また、提案する各案の組み合わせにも深謀遠慮。A案は商品と市場を考えて「やるべき」案。B案は「やるべきプラスやりたい」案。C案は手ごわいX社が出してきそうな「X社つぶし」案。D案はプレゼンが盛り上がる「ニギヤカシ」案。E案は、平凡な表現だが、減点法で選ばれるときに俄然光を放ち始める「事ナカレ」案。

 いずれにしても選ばれないことには始まらないわけで、いわゆる「コンテ映え」のよいプランを出しがち。選ぶ側もコンテ上で派手に見えるものを選びがちです。仕上がったときに「こんなはずでは……」になりやすいのです。

 競合プレゼンで負けた場合、しばらくすると敵の作ったCMを見ることになるわけですが、「サスガー。あれに負けたのならしょうがないや」と納得できるものにはめったにお目にかかれません。たいていの場合はこうです。「あんなの選んじゃったの?」
 広告はパートナーを決めて、コミュニケーションのパイプがしっかりとできた相手と作るべきです。
 〈賛成の立場から〉

 ほんとうの意味での新しい提案は、競合プレゼンという場でしかできないと思います。同じパートナーとの共同作業は良くも悪くもお互いを知りすぎている部分があります。ツーと言えばカーとなるわけで、逆に言えば「カー」しか出てこないのです。「ヘー」や「ホー」を期待するなら競合プレゼンです。

 プランナーとしても、今まで「カー」しか出せなかった欲求不満をぶつけるチャンスです。競合プレゼンは多くの場合、幹部への直接提案です。「今までの広告のあり方を見直すべきである」、といった踏み込んだ話ができるのも、広く外部の者の考えに耳を貸そうという競合プレゼンの場であればこそ。

 さらに、僕たちの提案が支持された場合、そのCMプランは宣伝部内でも尊重されます。いくつもの可能性をさぐったうえで自分たちで採用したプランです。大きな修正など加えたのでは、元も子もありません。プランナーにとってはイメージどおりのCMを仕上げるチャンスです。
 大胆な発想、新しい表現の広告が思う存分やれるのは競合プレゼンあってこそです。
 さて、Kさんはどちらを支持しますか。なぜか〈賛成の立場から〉のコメントが少なくなってしまいましたが、他意はありません。ほんとうです。



1件のコメント:「第二章 CM業界A面、B面 13)「競合プレゼンの功罪」
  1. Pingback: CMプランナーの仕事術 目次 | プレゼン研究室

page top
カレンダー
2017年5月
« 4月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  
検索
最近の投稿
アーカイブ
カテゴリー
最近のコメント
copyright(c) hayashi yasuhiko.com
contact