プレゼン研究室

第二章 CM業界A面、B面 12)「TV局のプロデューサーに告ぐ」

12)「TV局のプロデューサーに告ぐ」 プロデューサーのSへ

 僕は怒っているのだ。Sはまったくわかっていない。わかってないんだから黙ってろ、と言いたい。そうだ。同窓会の二次会での発言だ。

 「どうして広告の人間ってあんなにタレントに気兼ねするんだ? お前らCMの人間がタレントをエラくしてるんじやないのか? ナレーションの一字一句までスポンサーがチェックするんだって? よくやってられるよなぁ」
 あれだよ。思い出したか。まず、基本的な用語の訂正から始めるとだ、残念ながらCMの世界ではスポンサーとは言わない。クライアントとか得意先と呼ぶのである。

 僕はクライアントという言葉が好きだ。「クライアント」を相手とする職業をあげてみれば、弁護士、会計士、私立探偵などがある。つまり依頼主の意を受けて、専門分野について知恵をしぼり汗を流すパートナーなのだ。

 スポンサーというのは後援者であって、相撲でいうタニマチ。花柳界でいうダンナ。寄席でいうオダン。コロンブスのイサベル女王である。スポンサーとスポンサードされた者との間にはホンネとタテマエがあるが、クライアントとの間にはホンネだけがある。僕は、そのホンネから生まれるクールな緊張関係が好きなのだ。実態は知らない。知らないが、スポンサーという言葉には「ウッフン、オネガイ」、「ヨッシヤ、ポン!」そんなイメージが僕にはある。

 スポンサーの場合、世間に出るのはスポンサードされた人やイベントであり、クライアントの場合、世に出るのはクライアントである。僕たちは「菊見るときは陰の人」なのだ。「こんなの出して恥をかくのは宣伝部長のワタシだ」と面罵されたことがあるが、じつはこれは、まったくもって正しい。「こんなの」と「恥をかく」かどうかは大いに異論のあるところではあるのだが。

 そして、クライアントの言うことは、かなり正しいのだ。このCMが一般の家庭に入ったとき、どう見られるか。魅力あるメッセージか。傷つく人はいないか。工場の若い社員たちは元気が出るだろうか。流通の人は力を入れて売ってくれるだろうか。経営者の方針とズレていないか。会社を大切に思っている人ほど、チェックポイントは多く、勇気ある選択は正しい。正しいというのは「その企業にとって正しい広告」がチョイスされるということだ。

 企業は、外から見えるのはそれこそ氷山の一角で、水面下には創業から営々と築きあげた歴史がある。その企業が企業として成り立っている根幹の部分がある。CMプランナーの、やりたい、やりたくないという思いを超えたところで、「正しい」選択がされているはずである。

 ただ、岡目八目という言葉があるように、離れて見たほうが正確に見える場合がある。欠点もハッキリわかったりする。クライアントの業界以外のことも、CMプランナーは仕事をとおして知っている。また、たとえば炭酸飲料を売るのに「コーラじゃない」というアプローチをして、アメリカで大成功をおさめた7UPの広告があるように、生活者の目から見直して商品の魅力を発見することも得意だ。

 そのあたりの技とアタマ分認められてパートナーシップが成立しているのだ。あくまでも、世間に出るのはクライアントの名前。一字一句が「合意の上で」は当たり前だ。
 
 次に、タレント云々の件。CMは、商品を売るためにタレントの力を借りているのだ。商品のイメージを、あるベクトルでシフトするために、タレントのもっているイメージを拝借しているわけだ。時には、そのイメージがジャマになったりもする。いわゆる名前の売れていない人のほうが、商品がフレッシュに見えることがある。だから、CMの人たちは、いわゆる売れていないからといって、タレントに横柄な態度をとったりすることは断じてない。少なくとも僕の知っている人たちにはいない。

 CMプランナーをはじめ、CMを作っている人間には、何よりも生活者のふつうのバランス感覚が大切なのだ。だから僕らはキミたちのように、アシスタントの女性を「みどり!」なんて、呼び捨てにはしないのだ。

 キミは芸能関係の人間であって、僕はビジネスマンなのだ。同じようにスニーカーをはいて、セーターなんか着ていてもだ。S、どうだ、わかったか!



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