プレゼン研究室

第二章 CM業界A面、B面                            10)「マル秘テープB面」

10)「マル秘テープB面」 映像新聞編集部のNさんへ

 前回、手紙に書いた録音テープの件ですが、じつは、まだ続きがありました。B面にも入っていたのです。こちらは録音状態が良好です。また内容を紹介しますが、Nさん、活字にしたら今後こそほんとうに許さないからね。
 B面はどうやらプロデューサー(P)と、制作進行(PM)の会話と思われます。A面に出てきた演出家が帰った直後のようです。

(PM)演出家、帰りました? あいつけっこう文句が多いですよね。
(P)聞いてたのか。オレは彼の言ってることもよくわかるけどな。
(PM)でも、高いギャラ取って、文句タラタラ、よく言いますよ。
(P)そりゃそうだけどさ、それを言っちゃあ……あ、オレも腹立ってきた。
(PM)立ちますよね。
(P)今は、演出家がみんな事務所入ったり、奥さんに秘書やらしてるから、やりにくく  てかなわんな。貸しがあるからって、「ねえ、頼むよ」てな具合にいかなくなっちゃ  った。
(PM)「事務所しかスケジュールわかんないから」、なんて逃げられて。
(P)そう、事務所に電話してみると、「ロケが入っていてダメです」。ホントのところ  はどうだかな。売れてない頃に、方々にオススメして歩いてやったの、このオレだぜ  。

 (おやおや。のっけから、小生の知らない話が出てきました)

(PM)スタッフ主義の入って二種類あると思いません?クオリティを守りたい人と…
(P)自信のないやつ。自分のやりたいことを、アウンの呼吸でだ、アウンって書けるか  。アは、アホウのアだ。
(PM)ウンは?
(P)ウンは……まあいいや。アウンの呼吸でやれるスタッフと組みたい。そういうのは  わかるよな。問題は、自信がないやつ。自分に自信がないもんだから、優秀なカメラ  、照明、美術スタッフでかためて、自分の保険にする演出家。いるだろ。
(PM)いますよねえ。スタッフのギャラばっか高くなって、弁当代ケチリたくもなりま  すよ。そういうのに限って、「また柿右衛門の弁当?」とか言って。三年前には、一  緒に駅の立ち食いソバ屋人って、ウマイうまいって言ったんですよ、アイツ。
  もっとモデルの人数がいないと成立しないなんて言っといてさ。フィルムあがってみ  ると、どこにも写ってないのがいたりしてさ。ギャラの清算しながら、あのヤローつ  て。あいつの名刺、破ってやりましたよ。
(P)おまえ、なんか今日、荒れてるな。家庭はうまくいってる?
(PM)帰ってないのに、うまくいくわけないっすよ。ま、それはいいんですけど。
  ホント、「いちいちカメラマンに相談するんじやねえよ」つて言ってやりたくなりま  すよ。カメラマンに演出のアドバイスしてもらってどうすんの。
  ディレクター、つーのはディレクションする人ですよね。スタッフにディレクション  されてばっかじや、肩書が泣きますよ。
(P)さすが英文科だな。
(PM) ついでに言うと、プロデューサー、つーのはプロデュースする人ですよね。
(P)おいおい、オレのことはいいよ。ほっとけ。
(PM)そういうのに限って、代理店のウケが良かったりするから始末が悪いですよ。
(P)仕上がったCMからは、だれの力かというのは見えにくいもんな。
 
(確かに、あがり良ければすべて良し。演出家の力量は見えにくいところがあります。で も、いいスタッフを持っているということは、それもひとつの力量であることには、違 いないわけでありまして……)

(P)近頃、演出家と飲むこと少なくなったよな。
(PM)代理店とかプロデューサーとベタベタの関係になるの、ヤなんじやないですか
(P)MAVのあとくらい、一緒に仕事した人間とワイワイやってもいいよな。特に、い  い仕事ができたときはさ。
(PM)「ボク、クルマで来てるから」なんて言ってさ。ピッカピカのBMW乗って帰る  んですよね。この前、オールスタッフ打ち合わせやっていて気がついたんですけど、  シャツのテカリが何か違うなと思ったら、よく見ると、シルクですよ、シルク。
  そう思ってまわりを見たら、カメラマンも照明もスタイリストも、みんないいモン着  てますよ。特売の安モンのシャツなんか着てるのは、代理店とボクとプロデューサー  だけですよ。
(P)おい、お前……。いつからそういう人間になったんだ。さもしいヤツだな。
  「さもしい」って言葉、知ってるか。そんなこと考えてるから人相が悪くなるんだ。  ほら、上目づかいで見るんじゃねえよ。プロデューサーってのはな。おまえも、あと  二、三年でプロデューサーだろうが。プロデューサーは、CMを実際に作る側の責任  者なんだぞ。現場をすべて預かってるんだぞ。
  スタッフは、お前の手のひらの上にいるんだ。そこで遊ばせてやるのがオレたちだろ  うがよ。ココロザシを高くもってなくちゃだめだ。仕事が楽しくなってこないぞ。
(PM)すみません……。

(しばらく沈黙がきました。ここで、プロデューサーが「海を見に行こうか」と言えば森田健作の青春映画です)

(P)まあ、オレは、ほんとうにおもしろいのはプロデューサーよりPMだと思うけどな  。Pは代理店ワークが多くて気ばっかりつかう。うまくいって当たり前、何かあった  らPの責任。プロデューサーっていうのはそういうもんだぜ。
  PMは、うまくいけば、「あいついいね」ってことになるし、ヘマやってもプロデュ  ーサーが謝ってくれるんだからさ。
(PM)そうですかねえ。プロデューサーは、うまいもん食って飲んでる感じしますけど  ねえ。
(P)バカ、胃薬飲みながら酒飲んでうまいわけないだろ。あ、腰いて。
(PM)ギックリ腰、まだ治らないんですか。運動不足ですよ。
(P)「十歩あるくなら走れ」つて言われたPMのころは、カラダの調子もよかったなぁ  。おっと、こんな話してられねぇや。
  見積り書かなきや。お前も清算たまってんだろ。
(PM) いっけねえ。

 ここでテープは終わりました。小生は、プロデューサーの言った言葉をつぶやいてみました。ココロザシ、こころざし……。そうだよなあ、プランナーも「志」だよなあ。そう言いつつ、特価三千九百円で買ったズボンのひざをポンと打ちました。



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