プレゼン研究室

プレゼン研究室 月別アーカイブ: 【6月 2010】

「プレゼン力の伸ばし方」:読む力を伸ばす

1「いい表現の盗み方 8回朗読法」

 本を読んでいて、「うまい表現だな」、とか「こんな言い回し、自分も使いたいな」と思うことがあるはず。そんなとき、どうするか?私は声に出して読むようにしている。それも8回、声に出して繰り返す。8回というのは、特に理由があっての回数ではなく、5回だと足りないような気がするし、10回やるのかと思うとちょっと気が重い。ま、そんなところから出てきた数字にすぎない。

 まわりに人がいなければ声に出して。電車の中なら、本から目をあげて、そのフレーズを繰り返しつぶやいてみる。その際、声に出さなくても、ノドのところで音声にする感覚でやってみてほしい。覚えようと意識する必要はなくて、いちど自分の身体を通すという感覚で十分だ。せっかくいい表現を味わおうとしているのに、覚えようとすることでストレスになってはつまらない。

 好きな言い回しには、先でかならずまた出会う。そのときには、「やぁ、また会ったね」と声をかけたくなる顔なじみだ。やはり8回声に出して読む。そうすることで、気に入った言葉は、自分が使える言葉に変わる。2度目で覚えられなければ、3度目に会ったときでいい。とにかく繰り返し口に出して、音にして耳に聞かせること。書いたり話したりするための手持ちの言葉を、私はこうして増やしてきた。

 言葉は真似することによってしか手に入らない。自分は個性的な表現をしようとして、たとえば「美しい」というのを「うつかしい」と言えば、誰にも通じない。言葉は発明することができないもので、みんなが使う言葉を真似るしかないのだ。他人が使った言葉の中から、自分が気に入ったフレーズを盗んで、使えるようにする。「盗む」という言葉がいけないなら、「もらう」と言い換えてもいいが、断わってもらうわけではないから「盗む」がふさわしいだろう。自分がどんなフレーズをいいと感じて集めるか、それこそが個性なのだ。

 8回声に出して読む習慣のきっかけになったのが何だったのかは、よく覚えていない。「陽の光を透かした桜の葉が、いちばん美しい季節」5月のことを、こう表現したのは、知人の父上で、故人になられた作家の白崎秀雄さん。木漏れ日を浴びるような言葉にふれて、おもわず声に出して読んだ。耳にも心地よくて、繰り返すたびに葉裏の葉脈が透けて見える気がした。20年ほど前のことで、きっかけは、そのときだったかもしれない。

「大切なのは論理の整合性より語り口だと思う(内田樹)」。「書くことは二人称をつくり出す試みです(長田弘)」。「人生の本舞台は常に将来に有り(尾崎行雄)」。「目の感覚を手の感覚の下に置け(ジャン・ジャック・ルソー)」「感覚は誤らない、誤るのは判断である(ゲーテ)」……などなど。これらのフレーズは、すべて8回暗証して身体の中に残っているものだ。

 私たちは文章を読むとき、目で読んでいるように思うが、それだけだろうか。たとえ黙読していても、文字を音に変えて読んでいる。なんとすがすがしい言い回しだろう、高揚感がわきおこってくる書き方だろう、そんな文章に出会ったら、声に出してして読んでみてほしい。言葉と自分の呼吸とが一体になって、高揚感や心地よさを醸しだしていることに気づくはずだ。私が声に出して読むことを勧めるのは、文章における音声の力に気づいてほしいからだ。

 理屈ではそうかもしれないが、どうもこころに響かない。そんな企画書や報告書は、音声としての心地よさを備えていないことを疑ってみるべきだ。書き方のところで詳しく話すつもりだが、自分の書いたものはかならず声に出して読む習慣をつけよう。声に出してみれば、論理の矛盾した場所にもすぐに気がつくものだ。

 あなたの文章はとても読みやすい、と言ってもらえることがある。初めて本を書いたときにそう言われて、なぜだろうと考えた。自分では、べつだん読みやすい文章を書いているつもりはなかった。ふと、ラジオCMの原稿をたくさん書いてきたせいかな、と思い当たった。いちばん短くて20秒。長いもので120秒。その長い120秒のCMを一時期たくさん書きました。書きながら、ナレーターが読むときの口調で、間も取りながら口に出して読みます。音声だけでは聴く側が混乱しそうな同音異義語を避ける。漢語は同音異義語だらけだから、置き換えられるものは和語を使う。そうした基本的なことを押さえたうえで、音声にしたときに快いメロディが生まれるような言葉づかいを心がけた。そうしたこと習慣になって、「読みやすい」という感想につながったのだろうと思い至った。

 山口瞳さんの、たしか「温泉に行こう」という本で出会ったのが、「驟雨沛然(しゅうはいぜん)」。雨が水しぶきを上げるくらい激しく降るようすをさす言葉。山口瞳さんは、さんざん下ネタを披露したあとに、いきなり行を変えて「驟雨沛然。」という言葉を置いた。山口さんもバカだよねぇ、よくもまあそんな下品な話を延々と……。と思わせたあとにに出てくる「驟雨沛然」。いけないことに、私はこの言葉を知らなかった。作家は話を落とすだけ落としておいて、すっと見せる端正な後姿。「驟雨沛然」という手持ちの言葉があるから、そのぶん下卑た話もできるのだ。

 職人さんが自分の道具を磨いていつでも使えるようにしておくように、言葉も使いたいときにすぐに取り出せるように磨いておく。8回朗読法は、そのための効果的な訓練法だ。
 



「プレゼン力の伸ばし方」≪読む・書く・話す≫

この連載は不定期です。思いつくままに自由に書いていこうと、「草稿」をそのまま載せています。原稿の順序もあまり配慮せず、「読む」「書く」「話す」それぞれの箱に、順不同に原稿を投げ込んでゆく、といった書き方になることを、初めにお断りしておきます。


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<はじめに>

新潮新書「歴史を動かしたプレゼン」は、楽しみながら原稿を書くことができました。コロンブス、秀吉、大黒屋光太夫、クーベルタン男爵という知力に秀でた人物が、それぞれ国も時代も違う場所で行なったプレゼン。不可能と思われたプレゼンが成功したのはなぜか。その鍵をさぐろうというのが、執筆の動機です。

原稿を書きながら、広告業界で行なわれるプレゼンのようすをいつも思い描いていました。コロンブスのプレゼンなどに臨場感を感じてもらえるとしたら、広告業界で数多くのプレゼンを経験させてもらったおかげです。天才たちが行なったプレゼンのみごとな手際に舌を巻きながら、新書を書き終わりました。そうして書き終わったときには、次に書きたいことが見えてきました。

相手を納得させ、相手を動かすプレゼンができる力、すなわち「プレゼン力」はどうすれば身につけられるのか。広告会社で長年プレゼンを行なってきた経験、そして先輩や同僚たちのみごとなプレゼンに立ち会う機会に恵まれたこと。二年前からは、コミュニケーションとスピーチのNPO「トーストマスターズクラブ」に所属し、新橋クラブの会長(2009〜2010年)というお世話係りをしながら、スピーチ技術を学んできました。スピーチはプレゼンではありませんが、プレゼンを成功させるのに必要な「言葉で心を動かす」という要素は、両方に共通のものです。
そうした経験をもとに、プレゼン力を伸ばす方法をさぐってみたい。私の経験だけでなく、「歴史を動かしたプレゼン」に登場するプレゼンの天才たちの技も、遠慮なく盗んで紹介しようと考えています。

さて、「プレゼン」とは何でしょう? あらためて問われると、答えに困るかもしれません。もともと「プレゼン」とは、広告の企画をクライアントに提案することで、広告業界の中の「業界用語」でした。やがて業界をこえて流出し、今では婚活の場面でも、「それでは男性のほうからプレゼンお願いします!」などと言われているそうです。これは自己アピールのことですね。会社の朝の挨拶も、研究発表も、社内会議での提案も、「プレゼン」と呼ばれるようになりました。でも、ちょっと待ってほしい。人前で話をすることをなんでも「プレゼン」と呼んでしまうと、「プレゼン」が本来もっているパワーを見落としてしまうことになります。
私は、「プレゼン」または「プレゼンテーション」を、次のように定義します。「こちらが望む方向に相手の意見を変えたり、相手に行動を起こしてもらうことを目的としたコミュニケーション行為」。こう定義したうえで、「プレゼン力」を伸ばすための心構えや、技術の習得のしかたを考えて行きます。



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